熊、あるいは声に出して読みたくないディズニー童話

子供が出来ると、いつの間にか家のなかにディズニーのビデオやDVDや絵本や紙芝居が転がっているようになる。例えば「三匹の子ぶた」のビデオと紙芝居がある。小さい子供がいると、「もう要らなくなった」などと言ってお古をいただくことが多い。子供は喜ぶし、一見情操教育的にも良い物のように思われるので、そのまま与えることになる。

ところで「熊」という字の読み方を知っているだろうか。そう「く・ま」、ローマ字で「K U M A」である。東京山の手生まれの東京山の手育ちを自認する私としては自分の喋る日本語こそ標準語であると固く信じて疑わなかったのだが、つい最近まで「熊」のことを「[く]ま」と読んでいた。「く」にアクセントを置いて強く発音していたのである。「『熊』は『[く]ま』と読むに決まっているだろう、『く[ま]』では目の下にできる『隈』になってしまう」などと言っていた。

ところが「馬」を「う[ま]」と発音するように、日本語アクセント辞典をみると「熊」は「く[ま]」と「ま」にアクセントを置いて発音するとなっており、確かにNHKのアナウンサーはそう発音しているのである。つまり東京山の手生まれ山の手育ちの私の「熊」の発音は標準語的には間違っていたのだ。何と言うことだ! そしてある時閃いたのである。これはディズニーの醜悪な童話「クマのプーさん」が悪いのである。熊に「プー」などというふざけた名前をつけ、「さん」付けにして呼ぶなどということに、つい最近まで何の疑問も抱いていなかった。確かに「さん」を付けるとすると「[く]ま・さん」と読む方が言いやすい。すでに我が息子は「さん」を付けて「[く]ま・さん」と発音しているし、「く[ま]」と訂正しても「[く]まだよ」と反論してくる。これはまずい。わが家では「プ─」は再生禁止だ!

それ以外の問題はないか、いや「三匹の子ぶた」も問題だ。わが家は木造建築である。日本ではごく普通のことである。だが「三匹の子ぶた」の世界観では、木造家屋は怠け者が作る粗末な建物でオオカミの前では無力である。まじめな勤労者は石をコツコツと積んで建物を作らなければならないのである。そうやって作った建物だけがオオカミを撃退できるのだ。何の疑問も抱かないまま、そんな西洋流の価値観に子供を染めてしまっていいものだろうか、「おやまあ石積みの家でオオカミは逃げていきましたねぇ、でも石積みの家は地震がこわいよねぇ。地震で石が崩れて押し潰されてしまうかも知れないねぇ。やはり木造の家の方がいいねぇ」などというコメントを、紙芝居を読みながら子供に言い含めた方がいいのかどうか、悩めるのである。