なるほど社保庁は(ある意味)日本一のお役所だ

社保とは社会保険庁のことである。行方不明の膨大な年金の存在と、単に「やってます」という言い訳・理由作りだけのための「年金特別便」などで話題の官庁である。新卒で就職して以来転職をしたことのない私にとって、年金の問題は率直に言って他人事、自分には関係ないことであるし、当分の間社保庁にお世話になることもないと思っていたのだが、先日祖母が93歳で大往生を遂げたことから話は急転する。

意味不明の通知書

無事葬儀も終わり少しずつ落ち着きを取り戻しつつあったわが家に社会保険事務所から一通の手紙が届く。曰く「年金が振り込めなかったので確認の上で新しい口座番号を申告するように」と、理由欄には「振込先口座に名義人死亡の届け出でがなされているため振り込めない」と書いてある_1。確かに祖母が亡くなった後で銀行には電話をしたのでいわゆる口座凍結になっているのだが、社会保険事務所に連絡はしていなかった、というより社会保険事務所に連絡することまでは思いが至っていなかった。だからその封筒に書かれた電話番号に電話をしたのだ_2

問題の手紙は「年金の振込についての照会」などというそっけもない表題で、あくまで「あなたの年金について」問うている。振込ができなかった理由は「4」となっており、裏面をみると「受給権者が死亡されているという申出が金融機関にされていたため」と明確に書いてある。しかし、遺族向けの説明は一切ない。右側の「回答」欄も、「変更後の支払機関」を書く欄しかない。よくみると「金融機関の証明」や「郵便局の証明」欄があるが、これは後述。
問題の手紙

1 そもそも通知に「この度は御愁傷様です。さて故人の年金については、下記の通りのお手続きをしていただく必要がございます」などと書かれているのではない。あくまで本人に対して「新しい口座を申告せよ」なのである。「名義人死亡の届け出がなされているため」と書きながら、遺族がその手紙を見てもどうしたらいいのか何もわからない不親切な手紙を送ってくる矛盾に考えが至らないとは、さすが社保庁である。

2 死亡していることがわかったのなら後は社保庁側でよきに計らって欲しいものだが、いやしくもking of お役所の社保庁様は、そんな状況証拠だけで処理するわけにはいかないのだろう。

電話

そもそも話中で電話がかからない。この時私は気が付いたのだ。この電話番号は、記録が消えて年金をもらえないかも知れない多くの方々が問い合わせをする番号でもあるのだということに、である。

それでも電話をしなければ始まらないため、オフィスの同僚の目を気にしながら根気よく電話をかけ続けるとようやくつながった。自動音声である。「混み合っているのでそのまま電話を切らずにお待ちください」、音楽が流れる、待つ、「混み合っているので‥」同じアナウンス、音楽、待つ、またまた「‥そのまま電話を切らずにお待ちください」、言われなくても待っている!

音楽が途中から流れる、途切れる、アナウンス、音楽が途中から流れる、無音。どうも音楽とアナウンスの同期がずれてしまったようだ。そのまま待つ。アナウンス、ちょっとだけ音楽、すぐ無音、ずっと無音、いらつく、アナウンス、初めから無音、ずっと無音、故障か?切りたくなる、耐える、アナウンス、無音、このアナウンスとアナウンスの間の音楽も流れない長い長い無音はどうにかならないのか、どんな安物の電話設備を使っているのだろうか。 故障と思って危うく電話を切りそうになった が、まさか社保庁の深謀遠慮か。

やっと係員につながる。愛想はよい。送られてきた手紙のこと、送られてきた手紙に書いてあった年金番号などを伝える。振り込みができなかった分、すなわち祖母が亡くなった翌月の振り込み分までは遺族に受け取る権利があるらしい。それを受け取るための申請と、本人が亡くなったことの申請をしてほしいという。但しその申請はこの電話では駄目で、後日最寄りの社会保険事務所まで来てほしい、そうしないと正式な受付ができない、振り込みができない通知が繰り返し行かないよう、仮の受付はしておく、というようなことをていねいに説明してくれた。

窓口

全くもってお役所らしくない渋谷区役所住民戸籍課

仕事を休んで、まずは住民票と戸籍謄本などを取りに渋谷区役所に行く。入り口を入ったところに立っていた係員がすぐに声をかけて来て「今日のご用件は何でしょうか」と尋ねてくれる。「住民票と戸籍が‥」と言いかけたところですぐに紙を2枚渡される。それぞれ住民票と戸籍の申請書類である。お役所仕事とは無縁の実にスムーズな動きである。用紙に必要事項を書き終わって記入台から離れるとすぐに、先程の係員が受付番号の書いた紙を渡してくれる。いわゆる銀行の窓口などにある順番待ちの番号を書いた紙なのだが、私が 住民票と戸籍の両方を必要としていることを覚えていて 自分で機械に触るまでもなく住民票と戸籍それぞれの受付ボタンを係員が押して出て来た紙を2枚まとめて渡してくれたのである。

待ち合いの椅子に腰掛ける間もなく住民票の窓口から番号を呼ばれる。受け付けは一人しかいないのだが、申請書に素早く目を通すとすぐに受け付けて「申請目的は年金ですね、その場合料金は不要です、しばらくお待ちください」と説明してくれる。すぐに戸籍の方からも呼ばれるが、こちらも同様である。そしてものの数分で住民票と戸籍が出来上がり、区役所に来てから十余分でもう私は社会保険事務所に向かっていたのである。仕事ぶりは全くもってお役所らしくなく、要するに渋谷区役所の窓口対応は実に素晴らしい。民間でも渋谷区役所に窓口応対の勉強に行ったほうがいいところは結構あるように思う。

社会保険事務所

最近はお役所も変わったものだと思いながら、親切で丁寧で迅速な渋谷区役所のような対応を期待しながら社会保険事務所に向かう。ところが建物の外にも、何というか近寄り難いオーラが漂っているのである。玄関を入ると、すぐに案内の係員がいるべきブースがあるが、誰もいない。各階の案内板を見てもよく分からない。「死亡の届けはこちら」みたいなことはどこにも書いていない。どこに行ったらいいのか教えてくれる係員もいない。ましてや適切に用紙を選んで渡してくれる係員がいるはずもない。

しばし呆然としながら見回すと、社会保険庁のミスで年金を受け取れないかもしれない人が列をなして待っている部屋が1階玄関のすぐわきにあったので中をのぞいて見る。老齢の大勢の人が30人ほど辛抱強く列を作って待っている。対応している係員は入り口の一人を除くと3人だけである。入り口で何人もの人に取り囲まれて質問を受けている係員にやっとのことで「死亡の届けはどうしたらいいのか」と問うと、何と年金相談と同じ窓口なので列の後ろに並べという。3〜4時間は軽く待たされそうである。そんな暇は無いので「では用紙をくれ、郵送したい」というと、一応用紙を探して来てくれたが、いろいろと不備があるといけないのでできれば窓口に来てくれ、という。どうせ不備があったらまた来直さなければならないんでしょう、というと、それはそうですがいろいろと面倒なので、と繰り返す。電話で一応死亡の届け出ではしたのだが、というと、確認してくるのでしばらく待てと言う。待ち合いコーナーは年金相談と相談に訪れた老齢の人でごった返しており、私のような者の座る場所はない。

しばらくすると係員が戻って来た。振り込み停止の扱いにはなっているが死亡の受け付けはなされていない、やはりきちんと届け出でをしてくれ、という。そして申請に必要だと電話をした際に説明を受けた住民票と戸籍以外にも、年金手帳やら遺族の銀行通帳までもって来てくれというのである。そんなものがなぜ必要なのか、いずれにしても今日は持って来ていないし、私が係員にいろいろと問い合わせている間にも後ろに腰の曲がった老齢の方々が並んでしまって申し訳ない気持ちになって来たゆえ、会社を休んで来たというのに目的を達することができないまま社会保険事務所を後にしたのだった。

申請書は、お役所仕事を目指す全ての組織が見習うべき驚異のフォーマットだ

渋谷区役所の見事な応対と、比べる社会保険事務所の見事にお役所仕事中のお役所仕事とでも言うべき対応とのあまりのコントラストに、ただただ呆れるばかりであった。誰しもがCS(顧客満足)を当たり前に考える時代にあって、しかも年金問題でこれだけ騒がれている状況下にあって、純粋な形で「お役所仕事」体質が温存されていることは、驚異という他ない。

ところが、話はこれで終わらない。もらった申請書を見る。最後の一ヶ月分の年金を受け取るための口座を書く欄がある。遺族の誰かの口座を書けばよい。郵便局でも銀行でもよい。割りと色々なところで目にするごく普通の記入欄だ。ところが良く見ると、一つ決定的に一般的な口座記入欄と異なっているところがあるのだ。このようなことを思いつくとは、つくづく社会保険庁はオリジナリティーあふれる創造性豊かな「お役所」に違いない。

その違いとは口座記入欄のすぐ右下の押印欄である。口座の届け出印を押すのではない。では誰が押すのか、それは銀行である。何の為に?恐らく問題の銀行押印欄は、「確かに用紙に書かれた口座が間違いなく存在しており、口座番号などが間違っているなどして振り込みができず、その確認などのために社会保険庁様のお手を煩わせたりはしません」ということを銀行が証明するためのものなのである。私は、このような欄が口座番号記入横に付いているのを他で見たことがない。もしかしたら社会保険庁内部の問題の銀行押印欄を考えた人の考課表に「口座存在証明欄を設け口座記入欄の記入間違いを減らすことにより、国民が訂正のために度々窓口を訪れることを予防し、もって国民の利便性の向上に貢献した」などと書いてあったりはしないだろうか、と邪推して見たくなる。

口座番号を書く部分の右下に「金融機関の証明」という欄がある。これこそが社保庁をお役所たらしめている象徴的存在である(と私は思う)。
申請書の口座番号などをかく欄

言うまでもなくこの銀行押印欄は「利用者の利便性を毀損せしめる」ことはあっても利用者の利便性を向上させることはない。お客様(利用者)にわざわざ銀行の窓口に足をお運びいただくには及ばないし、万が一お客様にご記入いただいた口座番号が間違っていたら、「口座番号が間違っているため振り込めませんでした。もう一度正しい口座番号をご記入ください」と言って口座番号を書く用紙と返信用封筒をご郵送申し上げれば済むのである。というか、世の中社会保険庁以外はことごとくそうしているはずである。

お役所仕事とは、今日日、社会保険庁のことを言う のである。